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狩川駅新築工事の取り組み

山形県東田川郡庄内町にある陸羽西線狩川駅。ビルテックが新駅舎の設計・施工を担当したこの駅が、完成して1年が経過した。

JR東日本(以下:JR)の建物設備管理を主業務とする当社であるが、今回は駅舎の新築工事を担当した。
仙台支店が一丸となって取り組んだ駅舎の建替え。その歩みを振り返る。

旧駅舎の伝統を継承しながら
狩川駅の旧駅舎は1913年に建てられた木造の駅舎。100年以上の歴史を持つこの建物も、老朽化に伴い、改築が計画されていた。

 

新駅舎のデザインは、2021年2月にJR主催で実施されたコンペによって決定した。ビルテック仙台支店からもデザイン案を複数応募し、15案中、最優秀賞と次点の賞を獲得する結果となった。
最優秀賞を提案したのは普段は建物維持管理を担当している佐々木。過去、幾度と駅デザインコンペに参加してきた経験を活かし、その応募案が、駅舎設計に採用されることになった。

佐々木の提案には、与えられた設計条件を尊重しつつ、地域の風景を感じられるようなこだわりポイントが詰まっている。
1つは大きな窓。狩川の風光明媚な風景、すなわち田園や風車、桜並木を手に取るように見通せるよう、線路側をはじめ大きな開口を開けた。
もう1つは印象的な屋根形状。旧駅舎の屋根が切妻と寄棟を組み合わせたような形であったため、その要素を残せるよう2つの勾配を複雑に組み合わせた。
コンセプトである「風車のある景色」そして「地域とともに過ごす」を大事に設計した。

コンペに提出した模型
こだわりの屋根形状

選び抜いた材料
応募案をベースに、当社で実施設計から新築工事まで一貫して担うことが決まった。工事の担当に手を挙げたのは、入社5年目の工事課の山田。
「ビルテックに入社したからには、いつか新築工事を任せてもらいたいと思っていた。中でも駅舎は駅の顔。めったにない機会と思った。」語る物腰は柔らかいが、工事管理には真摯に、時に厳しい姿勢で対応した。

実施設計の深度化にあたり、コンペ案から大きく変更した点が2つあった。
1つは、構造の変更。コンペの条件では鉄骨造であったが、荷重条件やコストを考慮しこれを木造とした。
変更当初、柱は120mm×120mmの太さであったが、少しでもスリムに見えるよう構造計算を重ね、105mm×105mmまで小断面とすることができた。たかが15mm。しかしこれにより建物全体の印象がかなり変わるのだ。
もう1つは屋根の形状である。こだわりの屋根は模型の段階から構造的な難易度が高く、設計の際も課題となった。山田は、意匠と構造のバランスを考慮し、何度も検討を重ね、庇の形状を現在のものに決定した。

色や材質を決めるにあたっては、2人を中心にベテランから若手までが集って議論を重ねた。自分達の頭にイメージはあるが、お客さまに喜んでもらうには、どうするのがベストなのか——自職場の機器室スペース内につくり上げた、検討用模型を前に、頭をひねることも多々あった。佐々木は「妥協せず納得のいくものになるように」、山田は「コンペ案の意図をくみ取りつつ、より良いものを具現化できるように」と取り組んだという。

模型を前に素材を検討

木材は、卸売場や製材所まで赴き、地元県産の材から、厚さから質感までしっかりと拘りぬいて選定した。外壁のタイルについても材質感を肌で確かめるために外壁材のショールームまで足を運び、決定するというプロセスを踏んだ。
これらを進めるために、JRや協力会社など関係各所とも度重なる協議を行ったが、一つ一つ決まっていく過程には、達成感があった。

卸売場での材料選定

足しげく通った片道3時間
現場の狩川までは仙台支店から車で片道3時間、往復だと6時間にもなる。
山田はそれにもめげず、多い時には週4回工事現場まで足を運び、協力会社との連携を密に取った。職場の仲間そして家族の強力なサポートを得ながら、完成まで気の抜けない日々を過ごしたが、忘れることのできない良い経験になったという。

今回の工事は2021年8月からの約4か月。この地域の秋はとにかく雨が多い。風も強く、寒さが沁みる。狩川は紅葉も美しい地域だが、施工時にはそれを味わう余裕はなく、ひたすらに目の前の作業との闘いであった。
特に悩ませたのは模型時から苦戦していた屋根。勾配が2種類あり、現場で寸法を合わせながらの施工しかできない。綺麗に仕上げるために、職人の巧みな技を最大限活用した。

屋根の小屋組
現場での施工の様子

そうして細部までこだわり抜いた木造の駅舎は、新築でもどこかあたたかさを感じる仕上がりとなり、無事に12月の利用開始を迎えることができた。
旧駅舎で使われていた「狩川驛」の駅名標は新駅舎へと引き継がれ、新たな歴史を刻み始めている。

線路側の窓際には景色を望む椅子を設置
工事を担当した山田(写真左)と佐々木(同右)

思い出を形に
100年を超えて地域に愛された旧駅舎の解体工事も、新駅舎完成後に当社で担当し、2022年3月に解体工事は完了した。
しかし、この工事にはまだ続きがあった。

計画当初から、旧駅舎の木材を使った記念品の製作が検討されていたのだ。「駅古材のミライプロジェクト(駅古材をアップサイクルする社内チーム)」も参画し、打ち合せを重ねてできたコースターやマグネットは、同年8月末に駅をご利用の方々や地域にお住いの方々にお渡ししすることができた。これにより、ようやく狩川駅での一連の工事が本当の終わりを迎えた。
記念品には、建物を支えていた梁の部分が使われ、旧駅舎の写真がレーザーでプリントされている。「今までの駅舎も懐かしみつつ、新しい駅舎も温かく受け入れていただきたい」という思いを込めて作成した。

狩川駅での記念品配布の様子

そしてここからが、新駅舎が長く愛される地域のシンボルとなれるよう、ビルテックの建物設備管理のはじまりだ。

残念ながら、狩川駅を通る陸羽西線は、2024年度までは国道47号線のトンネル工事のため、振替バスの運行となっている。しかし、新しい駅舎はそのバスの待合室として地域の方々に日々お使いいただいている。
桜が綺麗な狩川に、皆さまも是非、足を延ばしてみてはいかがだろうか。

春先の新駅舎 見頃の桜とともに
ホーム側から見た新駅舎
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